【読者からの感想】石濱照子著『現代の自殺』
先進国の中で、わが国の自殺率の高さは社会的問題であり、様々な施策も実施されている。とかく、自殺は経済的な問題に因るものだとされる。が、本書では、「日本人の自殺観」について、歴史的背景など様々な考察を踏まえ、自殺は「自らの意志で選択した死」ではなく、「追い込まれた死」として、捉えることを提言している。
これらは、著者自身が区の健康福祉を担う現場において実施した、「特定高齢者における運動機能と抑うつ気分の相関について」の研究から、発しているものである。この研究では、対象者の70%が抑うつ傾向に該当するという衝撃的な結果が報告されている。
既に、日本は超高齢化社会、多死社会に、急速に伸展している。更に、若い世代の自殺にも、SNSを通じて、頻繁に行き交う事態ともなっている。今後の自殺対策において、キーワードとなるのは、やはり、「孤立からの脱却」、著者のいう「関係性の再構築」なのだと思う。その人が、話の出来る場、安心できる場を、地域においてどのように提供できるのか。
著者は、「地域社会の新たなネットワーク」として、中野区の「区民の健康づくりを推進する会」の実践について報告している。これは、地域支えあい活動の推進に関する条例の制定を踏まえ、子どもから高齢者、障がい者までの健康づくりについて、医師会、町会連合会、区商店連合会など17人の団体代表が取り組んだ2011年から2014年までの報告書である。地域において、活動されている方々の創造性、実行力の力強さを感じるものである。
これらは、今後の地域包括ケア体制の整備、地域コミュニティの再生の指南書として、貴重な提言となっている。先行きの不安、希望のもちにくい社会において、命が尊ばれ、希望を見いだせる、地域づくりの実践に向けての必読書である。ぜひ、お役立て頂きたい。
(M. I)
『現代の自殺』
【東信堂 本体価格2,800】