【書評】柳赫秀編著『講義 国際経済法』
『知財管理8』第69巻 第8号 2019年8月
会誌広報委員 H.N より
本書は,国際経済関係の各分野の専門研究者の方々向けに通商・金融・投資・知的財産に関する解説をしている,国際経済や国際取引の教科書的な書籍である。
企業の知的財産部門に属していると「国際経済法」というものになじみがないが,ガットやWTOも国際経済法の枠組みに入る。また、このWTOといえば,アメリカが中国に対して,WTOの原則である開放性と市場主導を求めたことが発端となり,トランプ大統領が中国に仕掛けた米中貿易摩擦が世間を賑わしている。このような国際的な経済や取引に世間の関心が高まっている中,本書が発刊されたのは非常にタイミングがよいと思われる。
ここで,国際経済や取引と知的財産権との関係性について今まで気にしていなかったが,実は知的財産権に関する国際条約も国際経済法と密接に関係しており,特に,知的所有権の貿易関連の側面に関する協定であるTRIPS協定もWTO附属書1Cとして1994年に採択されたもので,最も国際経済法に密接に関係しているものと思われる。本書の第9章「知的財産権」に知的財産権に関する国際条約であるパリ条約,ベルヌ条約,TRIPS協定等に関する解説がされている。これらの条約に関する解説は逐条解説には及ばないものの,歴史的な背景から概要まで詳細に解説されている。この章では単に条約・協定に関する解説にとどまらず,医薬品アクセス問題,TPP11(環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定)等の最新の今日的な話題にも触れられている。
知的財産権以外では本書は,ガットやWTOに関する解説,最近ニュースでよく聞くようになったWTOの紛争解決手続き,国際投資や国際金融等に関する詳細な解説がある。さらに,164の国・地域の全会一致を基本原則とするWTOが機能不全に陥り,FTAやEPA等の二国間協定や,TPP11のような多国間協定が活発になっているが,WTOとこれらの協定との関係についても章を設けて解説されており,協定の理解に大いに役に立った。加えて,身近な話題や課題を解説しているコラムが随所にあり,読者の理解や関心を高めるよう工夫がされている。
米中貿易摩擦やTPP11等は知的財産権の保護や技術移転の強制等の問題を含んでおり,企業の知財戦略に大きな影響を与えてきている。知的財産権に関する法律だけでなく,米中貿易摩擦等のベースとなっている「国際経済法」についても企業の知財部員も知識を習得する必要があると感じた。皆様も本書を読んで「国際経済法」を学んでいただきたいと思う。
(会誌広報委員 H.N)