【書評】田中弘允・佐藤博明・田原博人 著『検証 国立大学法人化と大学の責任』

【書評】田中弘允・佐藤博明・田原博人 著『検証 国立大学法人化と大学の責任』

静岡新聞 2018年9月9日より

真の自律への構想提示

 

国立大学が法人化して14年余りが過ぎた。山極寿一京大学長・国大協会長が「法人化は失敗だった」と公言する(Web版 読売教育ネットワーク「異論公論」No.40、2018・3・9)状況のもと、「国立大学法人化の成否を問う」とした本書はまさしく時宜をえたものと言える。

法人化前後に地方国立大学の学長であった著者らは、学問の自由、大学の自治を矜持とし、「真に自主的・自律的な大学改革」を目指して、文科省や国大協の法人化路線に対峙して闘った。本書は、その闘いの軌跡を真摯な筆致で辿った記録であり、将来への提言である。

独立行政法人制度を枠組みとした国立大学の法人化は、大学の内発的な意思や自主的な希望で行われたものではなく、経済界からの要請に添った政権による「省庁再編・国家公務員25%削減方針」達成のための、いわば上からの「改革」であった。

本書第一部の執筆者田中の、政府・財界によるさまざまな法人化圧力と国大協幹部(東大など旧帝大の学長)の妥協・迎合に対する批判の舌鋒は鋭い。読者は、法人化をめぐる国会審議や国大協の議論を辿りながら、筆者の憤激を文言と行間から読み取ることができよう。

つづく第二、三部では、法人化後も一年間学長を務めた田原が、佐藤とともに監事として大学に関わり続けた体験から、「目標管理システム」や「財政、評価・会計制度」「ガバナンス改革」などに即して、国立大学の「疲労」とすらいわれる現状を批判的に解き明かし、その上で持続可能な時代と社会の負託に応えうる、真の大学改革の方向とあり方を説いている。

法人化前後、個々の大学内で学生や教職員の動向がどうであったのかは重要な視点であろう。本書でも数箇所で言及されてはいるが、法人化をめぐる議論の中でそもそも文科省や国大協がこの視点を意識していたのかは大いに疑問である。

国立大学関係者はもとより、広く高等教育に関心のある方に是非とも読んでほしい一冊である。

(芳賀直哉 静岡大名誉教授 評)

 『検証 国立大学法人化と大学の責任

【東信堂 本体価格3,700円】

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