- 2019-10-21
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【書評】阿曽村智子『国際交流のための現代プロトコール』
はじめに
首脳外交全盛の今日、プロトコールの重要性を疑問視する人は少ないであろう。ただ、外交のプロの中にすら、プロトコールなる者は「外交技術」の一つであり、専門家に任せればよいと誤解している人がいる。これに対し、そのような認識は間違っており、理論的に言っても、実践論から言っても、プロトコールは彼らが思っているより遥かに「重く、深い」ものであることを、本書は明らかにしてくれる。
では、プロトコールに「重みと深み」を与えているものは何か? 本書をもとに敢えて整理すれば、第一に、プロトコールは国際社会と外交の本質に根差し、歴史や思想を反映したものであること、第二に、プロトコールは「西欧の匂い」が残るにせよ、「国際公共財」として国際社会にビルトインされた「インフラ」であること、第三に、プロトコールのマインド抜きに外交活動を進めることは、在外交官を含め、不可能であることが挙げられる。単なる技術と形容することは見当違いだということだ。
ところで、阿曽村先生(以下、著者)葉、UNESCOで実務経験を重ねられた「国際公務員の顔」、シンクタンクや大学で活躍された「理論家の顔」(大学では長年にわたり、プロトコールに焦点を当てて講義されている)、更には、大使夫人(ご主人がベトナム、チェコ・スロバキアなどで日本の大使を務められた)として、プロトコールを実践された「実践家の顔」と、「三つの顔」を持っておられる。本書はその「三つの顔」を綜合し、広い視野から記された好著であり、理論面、実践面の何れの要請をも満たすことから、外交のプロだけでなく、ビジネス、地方自治体、アカデミズム、メディア、NPOなどで海外と接触あるすべての方々の「頭造り」に大いに資するものと目される。
全体像
本論に入ろう。本書は、「三つの柱」(評者の主観に基づく分類)から構成され、凡そプロトコールに関わる事項は遍くカバーされた大著である。ただ、ここでその全貌を紹介する余裕はないことから、以下、本書の突出した魅力に絞って紹介する。
●理論編———プロトコールの定義、歴史
●実践編———①序列、②国歌・国旗、③国の名称と元首などの称号、④言語・書簡など、⑤国賓などの接遇、⑥服装、⑦設宴など
●文明論———日本的プロトコール、②文明的課題
実践編
先ず、本書の八割を占める「実践編」であるが、著者の長年にわたる研究と経験が凝縮された本書の「命」であり、著者の「魂とエネルギー」を感じさせる。感服した点を三点挙げる。
第一は、各項目にわたり、参考事例が多数紹介されていること——英仏米に関するものを中心に。たとえば、③の要人の「敬称、呼称」に関する具体的説明の豊富さなど、実に心強い。同時に、失敗例にも目配りされており(例えば、②の「国旗」関連の事例)、実用書としての厚みを感じさせる。
台には、イラストや写真、表が豊富な点。たとえば、①の「序列」について。評者自身、現役大使だった十年前には、席次には常に悩まされたものだったが、著者は、この面でも豊富な参考事例を各処から集め、提示する(西欧流席次例に加え、日本式、中国式席次例も豊富)ことで、本書の実用性を高めている。今日、ビジネスであれ、自治体であれ、海外から公人を招いての設宴が増大している折柄、席次関連説明は頼りになる筈だ。同様に、③の「敬称」、④の「書簡」、⑦の「設宴」(特に、招待状)に関しても、豊富な事例紹介が頼もしい。
第三に、(「文明論」の項で扱われている)英国のエリザベス二世来日(1975年)のプロトコールの実際が、諸資料を含め、「一気通貫」的に解説されている。王室と言う特殊性はあるが、ビジネス、自治体などの方々が、プロトコールの本質を理解するうえで有益な素材と思われる。
以上のように、具体的事例、イラスト、データなどが豊富に盛られた結果、本書は314頁の労作となったが、その結果、実用性は大いに高められた。
(理論編)+(文明論)
「実践編」に精魂を込めた著者ではあるが、どうやら、それで満足することはないようだ。