【書評】中根多惠著『多国籍ユニオニズムの動員構造と戦略分析』

【書評】中根多惠著『多国籍ユニオニズムの動員構造と戦略分析』

(A5・175頁・¥3200+税)

日本労働社会学会 日本労働社会学会年報第30号 2019年

 

 

小谷幸(日本大学)より

急速なグローバル化のもと外国人労働者が増加の一途を辿っている。にもかかわらず、その権利は適切に擁護・代表されていないのではないか―。本書は以上の問題意識に基づき、外国人労働者の組織化をめざす個人加盟ユニオン「ゼネラルユニオン」(以下GUと略)を対象として取り上げ、参与観察、インタビュー調査、質問紙調査等一次資料のほか機関誌等の二次資料を収集・分析し、その運動の特徴を浮き彫りにしようとする。

その際、外国人労働者の権利擁護という本書のテーマ自体が、労働研究・エスニシティ研究の両分野においてこれまで十分に顧みられていない点を著者は問題視する。その上で、両分野の間隙を埋めるべく、本書のタイトルともなっている「多国籍ユニオニズム」(Multinational Unionism, 以下MUと略)という概念を新規に設定し、労働運動研究の中にエスニシティ研究の知見を取り入れ考察しようとする。この点が本書の独自性として高く評価される。

本書の構成は、まず序章で問題意識が示されたのち、第1章で問題意識に基づく先行研究の整理が行われ、第2章で分析枠組みが提示される。第3章は調査対象であるGUの組織構造の記述であり、本書の主眼は第4章から第6章にわたるGUの事例分析である。終章では全体の要約および考察が行われ、今後の展望が示される。

本書の章構成を示した上で、各章を簡単にまとめ、紹介する。

序章 問題意識と研究の背景

第1章 労働のグローバル化と組合運動をめぐる先行研究

第2章 本書の課題と分析視角

第3章 GUの組織構造、組合員、組織形成の過程

第4章 インフォーマル・ネットワーク活用戦略による新規メンバーの動員構造

第5章 組合員による活動参加と集合財供給

第6章 ホスト社会からの指示動員のためのフレーム調整と正当性付与

終章 結論―多国籍な社会における新たな運動の時代に向けて

序章では、本書の問題意識と目的、主要概念についての諸定義が提示される。「不安定雇用労働者かつ外国人であるいわば〈二重のマイノリティ〉」(3頁)である外国人労働者の連帯可能性を探るために、本書ではMUを「外国人による外国籍的な特徴をもつ労働運動」と定義し検討を進めることが示される。

第1章は、MUを射程とする本書の分析枠組みを設定する上での先行研究として、海外、中でも米国で発展してきた社会運動ユニオニズム(Social Movement Unionism, 以下SMUと略)およびその日本へのインプリケーション、ならびに個人加盟ユニオン等日本の「オルタナティブな労働組合」研究が批判的に検討される。日本のMUを牽引する存在であり、先行研究ではSMUの日本における組織形態として位置づけられてきた「オルタナティブな労働組合」であるが、米国におけるSMUとは資源の少なさや組織の脆弱性等相違点も多くことから、SMUの枠組みで分析するには限界があると著者は指摘する。そこで本書の分析にあたっては、SMUの労働運動再活性化理論において最も重視され、かつ日本の研究では看過されている「戦略性」を中心に据えた独自の枠組みを構築する必要性が述べられる。

第2章では、まず本書の理論モデルの適用範囲が確認される。本書はオルタナティブな労働組合全てに適用可能な理論モデルではなく、外国人労働者の組織化を行うユニオンに研究対象を絞り、「相対的に組織的基盤が弱く運動資源に乏しいとされるオルタナティブな労働組合において、周辺的・流動的なMUの運動が、彼らが埋め込まれる社会構造のなかでどのように彼らの社会的機会やエスニシティを組み込んで成り立ちうるのか」(30頁)を解き明かすことを研究目的とする。

そのため本書では、MUが他の個人加盟ユニオンと同様にオルタナティブな組合組織であるがゆえの組織的脆弱性を有することがまず示され、加えて、MUの独自性として、運動のアクターが〈二重のマイノリティ〉である外国人非正規雇用であるゆえの社会構造上の制約をも有するという、いわば、2つの運動障壁を有していることが特徴づけられる。その上で本書は、それらの障壁にあってもMUが一定程度の活動を続けられている理由を、労使関係に限定されない資源の戦略的獲得に求めようとする。

その点に迫るべく、本書はSMUの労働運動再活性化理論も依拠する社会運動論、とくに動員構造論に依拠し、(1)未組織労働者の組織化によるメンバーシップの動員(第4章)、(2)加入後の一般組合員の動員(第5章)を分析する、とする。さらに本書独自の視点として(3)未組織労働者・組合員・経営者のみならず市民社会への働きかけによる支持動員にも着目し、「フレーム調整」の枠組みを援用しこれを分析する(第6章)。また研究対象として、語学学校教師や教育機関の語学教員を中心として組織するGUが選定されている。その理由は、MUの代表的組織である6団体の中から、外国籍の組合員の比率が高く組合の設立母体がないにもかかわらず、300人近くの組合員を安定的に有している点が本研究の目的に迫る事例としてとりわけ適合的だとされたためである。

第3章は、1991年に結成されたGUが、イギリス人労働組合活動家の勤務先である英会話学校の労働問題を一つの契機として語学学校の組織化を進めたこと、別の一支部におけるストライキが大規模に報道されることで組織として大きく伸長したこと、語学学校とともに徐々に教育機関の外国人講師、さらには南米系・東南アジア系労働者の組織化が目指されていることが述べられる。また、組合員のプロフィールとして、語学を教える高度専門人材であるものの、非正規の外国人労働者であり、社会保険未加入等の問題を抱えやすいことが示される。

第4章は、GU の一支部の活動を例に取り、新規の組合員を獲得するプロセスがインタビュー調査を通じて分析される。GUが社会保険未加入キャンペーンを機に支部組合員が増加した以降も安定的な組合員数を保っている理由について、いくつかの校舎を掛け持ちして働くことによる職場の日常的なインフォーマル・ネットワークを通じた組織化が行われること、ニューズレターや各職場に配置されている職場代表を中心としたビラ配り等の戦略が功を奏していることが示される。

第5章では、GU加入後の組合員の活動参加の度合いを規定する要因が定量的に分析される。「友人をサポートするため」「何か良いことをするため」といったボランティア的な動機で加入した場合に活動参加に正の影響が出ていること、友人を通じた動員の場合、MU内での連帯・帰属感を評価している場合にも同様に正の影響が出ていることが解明されている。総じて、仲間とのコミュニケーションや活動することによる充足感を得られるという条件こそが組合員への組合活動への参加を促すことが示された。友人数や付き合いの程度がGUにおける集合財の獲得程度を規定していることも明らかにされた。

第6章は、GUが市民社会(ホスト社会)に対して2つのアプローチを実施し、ホスト社会からの支持動員を得ていることが示される。1つめのアプローチは「外国人労働者」というアイデンティティを強調する戦略、そして2つめのアプローチは組合組織の閉鎖性を打開するため、日本人活動家の持つ組織間ネットワークを活用し、ホスト社会のなかに運動を位置づけようとする戦略(フレーム拡張)である。

終章は、「二重の運動障壁を克服する戦略としての多方面からの資源動員」と本書のテーマを軸に再度の要約がなされるとともに、MUの他団体との比較を通じた一般化および今後の展望が示されている。

以上が本書の概要である。評者が考える本書の意義は以下の3点である。

まず1点目として、本書が対象を〈二重のマイノリティ〉と想定し、それゆえの権利擁護の困難さを、3つのアクターへのアプローチによる資源動員、すなわち外的組織化である未組織労働者の組織化、内的組織化である労働組合メンバーの活動の活性化、そして外部の市民社会への働きかけにより打開しようとする枠組みで捉えた点、およびその実証に概ね成功している点である。本枠組みは、参与観察を主としたデータと理論とのたゆまぬ往復の中でこそ生成された周到さを帯びている。

2点目に、労使関係・労働組合研究にエスニシティ研究の知見を組み込み、本書の対象が外国人労働者であることの障壁とともい資源としてのエスニック・コミュニティが活用可能となることを浮き彫りにしたことである。従来労使関係論の枠組みの中で論じられてきた個人加盟ユニオンの大きな特徴はその組織としての脆弱性であり、その克服に向けて多くの研究が組合員の定着メカニズムを追究してきたが、本研究はその議論に新たな知見を付け加えている。

3点目には、仲間とのコミュニケーションや活動の充実感が活動参加にあたって大きいことを数量的に実証することにより、個人加盟ユニオンの機能として重視される居場所・コミュニティとしての機能を裏付けたことが挙げられる。

以上の評価を踏まえた上で、本書で使われる概念や分析内容について評者が疑問に感じた点などについて以下に述べる。

まずいささか外在的ではあるが、SMUの特徴の一つであるワーカーセンターの存在を踏まえた分析枠組みの構築の必要性について。著者はMUをSMUの下位概念として位置づける(9頁注12参照)一方、SMUを労働組合が中心的に推進するものと捉えた上で論を展開していた。しかしながら、SMUは移民や女性といったマイノリティを当事者とした社会的公正をめざす運動であり、その一つの担い手として労働組合のみならずワーカーセンターが挙げられる。ワーカーセンターとは労働組合ではないが、労働者の権利擁護をめざすNGOであり、遠藤(2012)等の先行研究が指摘するように、組織規模やマイノリティの組織化等の面において個人加盟ユニオンと類似性を有する組織である。その点を含めて先行研究を整理できれば、SMU研究の検討を踏まえた研究枠組みの設定過程がスムーズになったと思われる。

また、労使関係への着目を最小限にとどめ(31頁)た結果、労働過程の特質を踏まえた分析が手薄になっている。SMUはサービス業従事者による運動である点に大きな特徴があり、例えば鈴木(2012)が紹介するように、接客サービスの労働過程ではサービスの質の向上を共通項として経営者や顧客との共闘がはかりやすく、その点を運動側が戦略的に活かしている。すなわち労働過程の特質を活かして資源動員をはかっているのだ。本書におけるGUの組織化・活動の活発さに関する分析では彼ら彼女らが語学講師である点が言及されるが、その特質およびそれを踏まえた戦略が明示的に記されてはいない。

次に実証部分の第4章~第6章について。まず第4章では1つの分会を題材として新規組合員の組織化プロセスを明らかにしている。これら分会では職場で継続的な労使関係が築かれており、GUの組織の安定に寄与していることがうかがえた。しかし一方で、分会ではなく労働相談等を契機に個人で加入する労働者の割合やその定着状況等の詳細については、南米支部への言及が見られるものの、明示されてはいなかった。個人加盟ユニオンは、寄る辺なき個人の労働者の拠り所としての機能を果たす一方、「回転ドア」のように組合員が入れ替わり継続的な労使関係機能を築きにくいことに最大のジレンマがあると評者は考える。それに対しGUのように分会による組織化で組織を安定させることは一つの効果的な方策であるが、一方で新規の相談、個人の労使紛争にも対応が必要であり(この層を軽視しないことが個人加盟ユニオンの一つの特徴である)、その過程で生じるさまざまな葛藤、例えば分会層と個人加入層との間の意識の隔たり等を一読者としては知りたかった。

第5章では、組合加入ならびに活動参加における友人とのネットワークの重要性が浮き彫りにされたが、それが彼ら・彼女らがエスニック・コミュニティだからこそより強固なのかどうかは、感覚的には理解できるものの日本人を主としたユニオンとの比較研究や質的研究による補足がないため、十分に実証されていないように思われた。終章における別ユニオンでのフィリピン労働者の親族ネットワークを介した組織化との比較は説得的であり、著者も述べるように今後の比較研究に期待したい。

第6章では、GUによる外国人労働者としてのアイデンティティを重視する運動が大切である一方、それにあまりに傾斜するとホスト社会からの支持が得られなくなるため、反戦運動等市民社会に調和的な運動にも参入していく戦略が採られているとあった。そのうち、前者の市民社会と共有できるイシューを選択する点は実証されているものの、後者のホスト社会からの負の効果について質的データ等の具体的な論拠は示されていなかった。

また、本書は全体を通して誤字が散見され、かつパラグラフ・ライティングが意識されていない箇所では文章の大意をつかむことに苦労した。作者の次のプロジェクトでは以上の改善を心がけていただくと、作者の意図がより読者に伝わりやすくなると思われる。

いろいろと要望を述べたが、世界第4位の移民受け入れ国であるにもかかわらず、技能実習制度等外国人労働者を取り巻く問題が山積している日本にあって、今後本書の内容がますます多くの示唆を与えてくれることは疑いない。何よりも本書が描き出した、当事者である外国人労働者自身が周囲に声をかけ、新しい仲間を増やしていく過程に評者は多いに感銘を受けた。SMUが発展した米国では、市レベルから始まった最低賃金引上げ運動が連邦下院での法案可決にまで至っているが、その基盤には当事者である移民低賃金労働者の運動があるからだ。

「運動研究は、社会学が果たすべき分野である」「運動論は社会学の特性=社会過程の研究が生かせる分野であり、研究の発展が望まれる」(河西2001:153-4)。今後も運動の現場に分け入った多くの研究蓄積が望まれる。

〔参考文献〕

遠藤公嗣(2012)「第5章 ワーカーセンターと権利擁護団体」遠藤公嗣・篠田徹・筒井美紀・山崎憲『労働政策研究報告書No.144アメリカの新しい労働組織とそのネットワーク』労働政策研究・研究機構。

河西宏祐(2001)『日本の労働社会学』早稲田大学出版部。

鈴木和雄(2012)『接客サービス労働の労働過程論』御茶の水書房。

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