現代公教育文化から発達文化へー文明史的転換をめざして
今や現代公教育はその制度的な評価システムを通じて、学校が掲げる「リテラシー」をものにする少数の「順応成功者」と、そうでない多くの者に振り分ける選別装置の役割を果たしている。この世界に対して本書は、生活の全過程全てにわたる人間形成の営みである「発達文化」の視座から、公教育内外の様々な領域を再構築する新たな人間形成の行き方を試みた労作であり、4部にわたる国内外をフィールドとした考察の全てを通じ、教育の文明史的転換への意思を読むことができるだろう。
タイトル | 生活世界に織り込まれた発達文化 |
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サブタイトル | 人間形成の全体史への道 |
刊行日 | 2015年7月10日 |
著者 | 青木利夫・柿内真紀・関啓子 編著 |
定価 | ¥3080(本体¥2800+税) |
ISBN | 9784798912813 |
Cコード | 3037 |
ページ数 | 280 |
判型 | A5 |
製本 | 上製 |
第1 部 体制転換期の新たな発達文化の模索
第1 章 タタルスタンの人間形成の全体史 関 啓子
1. 自由の増大、格差の拡大、不安の重層化
2. タタール語とロシア語のバイリンガル
3. 教育改革の新しい波
4. 共和国としての立ち位置と新しい民族イメージ
5. アイデンティティ構築の資源としての宗教
6. ノンフォーマル教育
7. 発達文化から人間形成を読み解く
第2 章 転換期における近代教育思想への向きあい 木下江美
1. 教育思想史をどう描くか
2. 転換期の教育思想への接近
3. 近代教育思想に向きあう
4. 改革教育学研究プロジェクトの展開と霧散
5. 東ドイツの改革教育学研究から読む教育社会思想史
第3 章 EU 域内の人の移動と構築されるヨーロッパ的次元空間 柿内真紀
1. EU の東方拡大がもたらしたもの
2. 移動先での生活と戦略
3. ヨーロッパ的次元にみる教育空間
第2 部 支配的文化のなかで揺れ動くマイノリティの発達文化
第4 章 「日本人」でもなく「外国人」でもなく 三浦綾希子
1. 日本社会で育つ子どもたち
2. 日常的、非日常的なエスニック経験
3. 日本生まれの子どもたちのエスニックアイデンティティ
第5 章 自前の発達文化を求めて 呉 永鎬
1. 朝鮮学校における人づくりの構想
2. 人づくり構想実現の試み
第6 章 公教育制度としての先住民教育の限界 青木利夫
1.「二言語文化間教育」導入の背景
2. 制度化される二言語文化間教育の理念とその現実
3. 日常生活と二言語文化間教育の乖離
第3 部 日常生活とともにある人間形成機能
第7 章 口頭伝承による人間形成と文字化による影響 ギタウ(藤田)明香
1. サンブルの自然・社会とその人間形成
2. サンブルの口承
3. 口承の文字化
第8 章 風景と道具の人間形成作用 太田美幸
1. 風景と道具の人間形成作用
2.「生活環境のおもむき」の再生産と変容
3. ナショナルな原風景とモダン・デザイン
第9 章 ヨーロッパにおけるモスクの発展とノンフォーマルな学びの多様性 見原礼子
1. ヨーロッパにおけるモスクの発展と論争
2. モスクのノンフォーマル教育的機能
3. 女性たちの学びへの参画
第4 部 〈育てる・育つ〉をめぐる人間関係の構築
第10 章 学びと創造の場としての吹奏楽部 高尾 隆
1. 社会構成主義
2. 状況的学習論
3. リーダーシップ論
4. 組織開発
5. 学習の転移から、文脈に埋め込まれた学習へ
6. 文化的実践
7. 学びと楽しさ
第11 章 日本の人間形成の今日的課題 金子晃之
1. 人間形成としての「しつけ」と家庭教育
2. 家庭での人間形成力と学校教育との関連
3. 家庭や地域社会において人間形成を支える力の崩壊
4. 規律訓練装置としての今日の学校
5. 日本の学校文化の混迷
6. 超自我の未成熟
第12 章 優香を育てた私・育てられた私 神谷純子
1. 課題を読み解くための視座と方法
2. 優香のひとりだち──「働くこと」の意味探しとその支援
3. 優香のひとりだちとその支援を読み解く──発達文化の視座から
4. 独自のひとりだちへの支援──発達文化の「越境」に向けて