【書評】小林雅之編著『教育機会均等への挑戦』
日本教育新聞 第19面 より
見習いたい支援制度の知恵
六十余年前、敗戦後の家庭環境激変の時、貧窮の中、評者と2人の弟は、日本育英会の奨学金(貸与)により、高校・大学を卒えた。社会に出てそれぞれが活動できたのは、奨学金制度と国立大学授業料が当時低廉であったからだ。それだけに、奨学金制度に常に関心があった。
祖父は高等小学校卒、父は高校卒。子は大学卒で孫も大学進学の予定。こうした家族は今、意外と多いようだ。これを、学歴上昇という人は多い。その裏には、教育機会均等化の動きや施策があった。加えて、日本の場合、家計に占める教育費の割合は大きいではないか。
そうした思いでいた日に、本書に接した。全486ページに及ぶ大冊。詳細な各国調査(日・米・英・スウェーデン・独・豪・中・韓の8カ国に及ぶ)から、わが国の大学生支援制度の特質を論じる。この国の場合、先にも触れたが、比較的高額な授業料と給付型奨学金の欠如。日本の奨学金・学生支援には、いまだ恩恵の形を残しているではないか。
調査対象の8カ国は、政治体制も経済事情も異なる。そうした国情の中で、大学生支援が各国で行われているのだ。編著者(東大・大学総合教育センター教授)を中心に、20人もの研究者が分担執筆。国(公)の財政逼迫の中、英知を集めた比較研究の一冊である。
(千葉経済大学短期大学部名誉教授 飯田稔 評)
【東信堂 本体価格6,800円】