新宗教新聞 2019年5月27日 第1114号
本書は立正佼成会の韓国における展開過程を、約15年にわたる綿密な調査に基づき、布教する側と受容する側の両方の側面から明らかにした学術書。
著者の専門は宗教社会学で、ブラジルの日系新宗教の展開を長年研究してきた。そこでは同じ「土壌」(ブラジル)に異なる「種」(教え、教団)がまかれた場合に、布教結果に与える影響は何かを比較検討し、異文化布教の課題を明らかにした。そして今度は、同じ「種」(立正佼成会)を異なる土壌(国、地域)にまいた場合について、研究を進めている。
立正佼成会において韓国は、近年教勢の進展が著しいバングラディシュに抜かれるまで、海外教会の中で信者数が一番多い、いわば「成功事例」である。
新宗教に限らず日系宗教の海外布教においては、いかに現地の人に広まるかがポイントとなる。日本で入会した日本人が移住したり、仕事や留学で一定期間滞在したりする際に伝わることが多いが、その種がどのような条件で新しい土壌に根付き、広まっていくかが問われている。
著者によれば、韓国は「反日感情」のため、日本にルーツをもつ宗教は困難を抱える一方、在日コリアンの存在は、布教上の有利な面もあるという。実際、韓国立正佼成会では当初、日本人の派遣教会長による布教が行われたが、反日感情の強い中での困難やビザの問題もあり方針を転換。「現地人による現地人布教」の方針のもと、元在日コリアンの母娘が中心になった。そして現地韓国人への布教の過程で、韓国社会へ柔軟に適応していった。
例えば日本では通常、会員宅の仏壇(ご宝前)に安置される「総戒名」だが、自宅に仏壇を置く風習のない韓国では、教会の戒名室に安置される。一方、日本以上に仏教の戒律が重んじられ、出家と在家の区別がはっきりしている韓国においても、在家主義の基本的なあり方は維持されている。
国内外に多様な人々、宗教が混在するグローバルな時代に、宗教がいかに展開するかを考えるヒントになる。
[東信堂 A5判 328頁 定価3996円]