田中弘允、佐藤博明、田原博人著『2040年大学よ甦れ―カギは自律的改革と創造的連携にある』
(A5、219頁 2400円十税)
橋本 誠より(静岡大学, 法制史)
本書の著者お三方は、すでに大著『検証国立大学法人化と大学の責任』(東信堂,2018年)において政府が国立大学法人化とともに推進してきた大学改革路線の実相をつぶさに検証した。本書はその続編として、政府の大学改革路線に対するアンチテーゼとして,今後20年を射程に(つまり2040年までを見通して)大学の自律的再生の道を展望しようとしたものである。
これら2冊には、三氏の大学の現状に対する鋭い危機感、大学を本来の姿に戻したいという大学への深い愛情、そして大学問題を思考し続ける不屈の意思が表出している。筆者はまずその点に深甚の敬意を表したい。
本書の構成と執筆分担は以下の通りである。
はじめに(田中)
第1章 大学「改革」の新次元(佐藤)
第2章 ポスト法人化のパースペクテイブ-ニつの将来像(佐藤)
第3章 大学教育を見直す(田原)
第4章 研究力低下をどうみるか(田原)
第5章 事務職員の力を生かした大学へ(田原)
第6章 誰にとっての自主・自律か(田原)
補 論 いま、教育を問い直す(I田中・田原、II萬田正治)
佐藤は、いまや大学改革をめぐる動きは新しいステージに入つた、という。2018年6月、財界は大学改革に関する報告書や意見書を公表し、同じく政府も「人づくり革命基本構想」など4つの国家戦略を閣議決定した。そこに組み込まれた基本方針は、そのまま中教審「答申」(2018年11月)に盛り込まれた。これにより大学はさらなる改革を求められる。
こうした大学改革路線に大学独自の視点から対時すべき国立大学協会は、「高等教育における国立大学の将来像。最終まとめ」(2018年1月)を公表したが、その内容は中教審「答申」と軌を一にするもので独自性は希薄である、と佐藤は批判する。
それでは, これからの大学はどうあるべきなのか。この点について田原は、教包研究、事務職員という3つの論点にわたり発言する。まずこれまでの大学教育改革は、その「目指す方向は間違ってはいない」が、トップダウン的改革による手厚い指導の結果、かえって「学生は受け身になった」として、教員と学生が人格的に触れ合、教員と学生と共に創る学びこそ必要であると説く。また、研究条件の改善は個々の教員の努力では限界があるとしても、できることはあるとして、「自らの発想、によるテーマ」での「研究者同上の協働・共創の研究」、「地域社会に課題を求め、社会人と一緒になって課題を解決する研究」の推進などを訴える。
そして最後に第6章で、田原は国立大学法人化の出発点に立ち帰り、現状の大学改革のあり方について抜本的見直しを試みる。すなわち、文科省には「現場に立脚した政策」を求め、現状に自主的に服従する現場の教職員にはその姿勢を叱咤し、改めて教授会と国大協の役割の重要性を強調する。そのうえで国立大学法人法の改正を具体的に提言する。それらを貫くのは「大学と教職員の自主・自律こそ大学改革の必須条件である」という確信である。
本書から学ぶことは数多いが、筆者がとくに考えさせられたのは国立大学法人法の見直しについてである。本書が指摘するように、大学改革が新たなステージに突人しつつある現在、大学教職員の改革要求を法改正という具体的な立法課題に収敏させ、国会の議論の場にのせることは喫緊の課題ではないか。法改正の素案はすでに本書が示してくれている。とすれば、次に必要なのは与野党双方の幅広い支持を得るための粘り強いロビー活動であろう。