戦争 vs.人道
―国際人道法は何をなしてきたか?
根絶不可能な戦争!?その中で国際人道法と赤十字はどう変貌を遂げ、何をなしてきたのか。テロとの戦いやサイバー戦争など新たな戦争の脅威の中で、法は何ができるのか。本書が詳説する「戦争と人道」の近現代史は、戦争に対する法の力と限界を映し出すが、それに代わる何かがあるわけでもない。今、重要なのは、国際人道法のメッセージを一部の専門家の知からグローバル市民の普遍的モラルへと深化させることである。それは苛烈な戦争の中に人間性を守る“不可侵の砦”を築くことである。
タイトル | 戦争と国際人道法 |
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サブタイトル | その歴史と赤十字のあゆみ |
刊行日 | 2015年10月16日 |
著者 | 井上忠男 |
定価 | ¥2640(本体¥2400+税) |
ISBN | 978-4-7989-1312-4 |
Cコード | C3032 |
ページ数 | 304 |
判型 | A5 |
製本 | 並製 |
著者紹介 井上 忠男(いのうえ ただお)
日本赤十字国際人道研究センター長。日本赤十字看護大学教授。東洋大 学国際哲学研究センター客員研究員。元日本赤十字学園事務局長、日本 赤十字社企画広報室参事(2005愛・地球博 国際赤十字・赤新月館副館 長)、国際部開発協力課長、青少年課長などを歴任。
主な著書 『戦争のルール』(宝島社)、『戦争と救済の文明史』PHP新書、 『医師・看護師の有事行動マニュアル』(東信堂)、『国際人道法の発展と 諸原則』(訳書 日本赤十字社刊)、『赤十字標章ハンドブック』(監修・ 共訳 東信堂)、『解説 赤十字の基本原則』(訳書 東信堂)、『赤十字標 章の歴史』(訳書 東信堂)など。
はじめに iii
凡例 xiv
序章 戦争と向き合う人類
1.人類の歴史は戦争の歴史か
戦争は人類最大の惨劇 /戦争の負の遺産 /戦争をどう理解するか
戦争は人間の本能か /人道法は戦争を認めるのか /戦争の犠牲を減らせないか
2.戦時の人道的慣行の歴史
古代社会の人道的慣行 /古代ギリシャ・ローマから中世の慣行 /諸宗教に見られる人道的慣行
近世における国際法の芽生え /近代人道思想の芽生え
第Ⅰ部 国際人道法と赤十字の誕生
第1章 ジュネーブ条約と赤十字のなりたち
1.国際人道法の先駆者たち
傷病兵救済への試み /南北戦争とリーバー法 /イタリア統一戦争と赤十字思想 /世界を動かした一冊
2.国際人道法と赤十字の起源
デュナンとその仲間たち /人道の夢追い人アンリ・デュナン /スイス陸軍の父デュフール将軍
思慮深い医師モノアール /戦傷外科の権威アッピア/赤十字の巨魁モアニエ
3.赤十字創設への歩み
篤志救護隊の創設を提唱 /鍵となった中立の概念 /赤十字規約の採択へ
各国救護社の設立 /赤十字標章の誕生
第2章 ジュネーブ条約締結への道
1.プロイセン・デンマーク戦争の教訓
戦争の現実から学ぶ赤十字 /手本となったキリスト教修道団 /南北戦争の活動から学ぶ
2.国際人道法の夜明け
一八六四年のジュネーブ条約の締結 /衛生活動の中立を宣言 /条約の功労者を巡る論争 /カトリック国も締約国に
3.デュナンの後半生
事業の破綻と信用の失墜 /赤十字との決別
第3章 ジュネーブ条約と赤十字の試練
1.プロイセン ・オーストリア戦争の教訓
勝敗を決したプロイセンの火力 /リッサの海戦の教訓 /戦死者の惨状と遺族の苦悩
戦死者の識別方法を改善 /赤十字社の手引書『戦争と慈悲』 /条約の海戦への適用を検討
批准されなかった海戦規定 /サンクト・ペテルブルク宣言
2.主導権を発揮するプロイセン
ビスマルクも注視した赤十字会議 /海戦における救護の課題 /平時の赤十字活動も議論
3.赤十字と異文化の軋轢
ジュネーブ主導への反発 /プロテスタントとカトリックの確執 /イスラム圏トルコの参加 /標章を巡る異文化間論争
第Ⅱ部 近代戦争と国際人道法の発展
第4章 近代ヨーロッパの戦争とジュネーブ条約
1.普仏戦争の教訓
両軍で一八万人が戦死 /進んだプロイセンの衛生部隊 /皇帝主導でジュネーブ条約を普及
未熟だったフランス救護社 /戦死より多かった病死者 /死亡率を低下させた近代医学
2.赤十字社の発展とデュナンのその後
パリ市民を救済するデュナン /国際救援の始まりとバートン女史 /救護社は赤十字社へ名称変更 /パリ内戦が与えた影響
3.捕虜救済と人道法の発展
初の捕虜情報局を設置 /捕虜救済の緑十字社を設立 /ジュネーブ条約を巡る法律論争
ブリュッセル宣言の採択 /オックスフォード提要の採択
4.東欧世界へ広がる国際人道法
バルカン紛争とトルコ赤新月社 /赤十字旗を切り裂くトルコ兵 /赤の三日月の承認 /セルビア・ブルガリア戦争で実績
第5章 近代日本とジュネーブ条約
1.日本の赤十字とジュネーブ条約
日本人と赤十字の出会い /西南の役と博愛社の設立 /日本のジュネーブ条約加入
賞賛された日本の条約普及 /森鴎外の演説に〝ブラボー”
2.日清戦争の試練
進む衛生活動の改善 /世界が絶賛した日赤の活動 /旅順口虐殺事件
病院船の必要性を痛感 /博愛丸・弘済丸の建造 /義和団の乱と病院船の活躍
3.日露戦争の人道的実践
ロシア兵への手厚い看護 /民間人の避難を勧告 /日露赤十字社の活動
武器の進化と傷病兵への影響 /高く評価された法律顧問
4.ジュネーブ条約の海戦への応用
米西戦争で浮上した海戦の課題 /一八九九年の海戦の条約の締結 /病院船の保護規定を改善
標章を巡る白熱した議論 /ジュネーブ法とハーグ法の分岐点 /一九〇六年のジュネーブ条約改訂
一九〇七年のハーグ条約の意義
5.国際社会と人道規範の普遍化
人道の原則の法典化 /文明国の人道と良心 /現代に生きるマルテンス条項
第Ⅲ部 世界大戦と国際人道法
第6章 大戦下の国際人道法と赤十字
1.第一次世界大戦と未曾有の惨禍
戦史に残る空前の世界大戦 /欧州に日赤救護班を派遣 /空襲による住民の被害
毒ガス兵器の惨劇 /毒ガス議定書の締結 /進歩した医療技術の恩恵
2.捕虜の待遇改善への取組み
国際捕虜中央局を開設 /抑留施設の訪問を開始 /一九二九年の捕虜条約の締結
平時活動での標章使用を承認 /軍国主義への道
3.第二次世界大戦と総力戦の犠牲
国際連盟体制の挫折 /史上最大の戦時救護 /条約未批准国の捕虜の惨状
想定越えた大量捕虜の運命 /捕虜になれなかった投降敵国人民
4.激増した民間人の犠牲者
無差別爆撃による大量殺戮 /ヒロシマとジュノーの活動 /核兵器の使用は合法か違法か
ホロコーストと赤十字の苦悩 /閉ざされたユダヤ人救済の道
第7章 戦後社会と国際人道法の再出発
1.大戦の教訓から条約の全面改訂へ
新たな戦争違法化の歩み /新たに文民保護条約を採択 /一九四九年のジュネーブ諸条約
2.地域紛争と進化する国際人道法
独立闘争と内戦の中で /ジュネーブ諸条約追加議定書への道 / 解放闘争を国際戦争と認知
内戦の犠牲者保護を強化 /第二追加議定書の意義
3.国際人道法の精神
命名者ピクテが託した思い /人類と文明社会への義務 /命と尊厳に関わる法
国際人道法の基本原則 /両輪としての人道法と人権法
4.赤十字基本原則の成立
明文化された行動規範 /人道機関の規範的メルクマール
第8章 現代の戦争と国際人道法の挑戦
1.冷戦後の紛争と人道犯罪の多発
激化する民族紛争と人道犯罪 /加速する国連の介入 /人道犯罪を裁く国際法廷の設置 /人道支援で問われる民軍関係
2.新たな戦争と国際人道法
混迷深める「テロとの戦い」 /例外なき交戦当事者の義務 /新たな戦争の特色 /保護される文民の概念とは
3.変化する赤十字の役割
変わりゆく赤十字と軍隊の関係 /民間人の保護救済へシフト /国連と赤十字の特色
4.赤十字標章と医療要員の保護
赤のクリスタル標章の登場 /赤十字標章の保護と適正使用 /医療要員の権利と義務 /有事関連法と国際人道法の履行
第Ⅳ部 グローバル世界と国際人道法
第9章 近未来戦争とグローバル世界
1.新たな殺傷兵器の出現
劣化ウラン弾や燃料気化爆弾 /無人攻撃機やレーザー兵器の出現 /自律型殺傷兵器の脅威
2.非殺傷兵器とサイバー戦争
非殺傷兵器は人道的か /サイバー戦争が問いかけるもの /サイバー戦争は規制できるか
3.未来兵器を規制するルール
問われる新兵器の合法性判断 /マルテンスから学ぶ普遍的規範
第 10 章 グローバル時代の戦争と個人
1.身近になった戦争と国際人道法
誰もが戦争に参加できる時代 /重要性を増す国際人道法の普及 /法は世界を救えるか
2.グローバルな人道秩序構築に向けて
グローバルな人間尊重のメカニズムを /普遍的な人道主義 /憎しみの連鎖の中で
主要文献一覧
あとがき
人名索引 /事項索引