第一線研究者を結集した現代国際法の最重要課題解明
慣習国際法理論、国家責任論、地球環境問題、そして海洋法に関わる諸課題等、広範な展開を示す本書は、故田中則夫教授の追悼を機に、教授と親しかった研究者16名が、それぞれ専門分野の先端的問題の解明を期して、新たに書き下ろした力作を編纂・収録した野心的論考集である。折からパリ協定の発効、中国の海洋進出をはじめ国際的諸問題が相次ぐ今日、本書は今後の国際法各分野の研究発展に大きく寄与するに違いない。
タイトル | 21世紀の国際法と海洋法の課題 |
---|---|
刊行日 | 2016年11月12日 |
著者 | 松井芳郎・富岡仁・坂元茂樹・薬師寺公夫・桐山孝信・西村智朗編 |
定価 | ¥8580(本体¥7800+税) |
ISBN | 978-4-7989-1403-9 |
Cコード | C3032 |
ページ数 | 504 |
判型 | A5 |
製本 | 上製 |
まえがき
略語一覧
執筆者紹介
第Ⅰ部 国際法の理論の現状と課題
第1章 慣習国際法論は社会進歩のプロジェクトに貢献できるか?…………………………… 松井 芳郎
―意思主義の再構成を目指して―
はじめに
1 慣習国際法論の現状
(1)国際社会の構造変化と慣習国際法
(2)伝統的慣習法論への批判
(3)伝統的慣習法論の遍在
(4)慣習国際法論の課題
2 一般的承認による普遍的妥当の主張
(1)慣習国際法の意思主義的理解
(2)「黙示の同意」と「推定的同意」
(3)慣習国際法の形成における主権平等原則
(4)意思主義の「躓きの石」?
3 慣習国際法形成における力の要素の抑制
(1)慣習国際法の形成における力の要素
(2)法的信念による力の要素の抑制
4 「一貫した反対国」の法理
(1)「一貫した反対国」の法理の根拠
(2)「一貫した反対国」の法理への批判
5 新独立国への慣習国際法の適用
6 意思主義によらない一般国際法の基礎付け
(1)慣習国際法論によらない一般国際法の存在証明
(2)「同意」の対象ではない慣習国際法の「基本原則」の存在の主張
(3)トムシャット「国の意思によらずまたはこれに反して生じる義務」の検討
7 慣習国際法の形成における国の意思の被規定性
(1)国際法の拘束力の基礎
(2)慣習国際法の社会的基盤
(3)国際法にかかわる国の意思の被規定性
8 国際法は進歩のプロジェクトに貢献できるか?―結びに代えて―
第2章 国家責任条文における義務の類型化と「被害国」の概念……………………………浅田 正彦
―第 42 条と第 48 条の関係を中心に―
はじめに
1 国家責任条文における被害国
(1)二国間義務
(2)集団的(多数国間)義務
(3)被害国以外の国
2 国家責任条文第 42 条 (b) と第 48 条 1 項の関係
(1)義務の性格
(2)義務違反の態様・重大性
(3)責任追及のためにとることのできる措置
おわりに
第3章 対抗措置における実効性の要求……………………………山田 卓平
―最近の国際実践の批判的検討と試論―
はじめに
1 ICJ 暫定協定適用事件
(1)事件の概要
(2)裁判所の結論
(3)対抗措置抗弁について
2 ガイアナ対スリナム海洋境界事件
(1)事件の概要
(2)対抗措置抗弁について
3 メキシコ高果糖コーンシロップ(HFCS)課税事件
(1)事案の概要
(2) WTO 紛争解決手続
(3)国際投資仲裁
おわりに
(1)本稿の検討から得られる結論:最近の国際実践の傾向
(2)最近の傾向の正当性評価と試論
第4章 先住民族の伝統的知識と知的財産権 ……………………………桐山 孝信
はじめに
1 国際フォーラムの多元化と交錯
(1)国際フォーラムの状況
(2)従来の知的財産制度での処理とその問題性
2 国連宣言のインパクト
(1)国際規範の集約点としての国連宣言
(2)知的財産権をめぐる議論
3 伝統的知識をめぐる WIPO/IGC での議論状況
(1) 経 緯
(2) 論 点
4 今後の課題
第5章 海洋と人権……………………………奥脇 直也
―国境管理措置と不法移民の人権保護を素材に―
1 はじめに
2 海洋法に組み込まれた人道の考慮の要請
(1)航行の安全確保
(2)遭難救助
(3)不法移民と遭難救助
3 大量不法移民の海上阻止と人権法
(1) Sale 事件(ハイチ不法移民)
(2) Tampa 号事件(遭難救助とアフガン不法移民)
(3) Hirsi 事件(リビア不法移民)
(4)総括的考察
第6章 九段線の法的地位……………………………坂元 茂樹
―歴史的水域と歴史的権利の観点から―
1 はじめに
2 南シナ海紛争の現状
3 歴史的水域または歴史的権利の観点からみた九段線
(1)歴史的水域の概念
(2)中国による九段線の主張
(3)歴史的水域であるための成立要件
4 比中仲裁裁判所の判決
(1)訴訟の提起
(2)管轄権判決
(3)本案判決
5 おわりに
第Ⅱ部 地球温暖化防止の新制度
第7章 人類の共通の関心事としての気候変動……………………………西村 智朗
―パリ協定の評価と課題―
はじめに
1 パリ協定―交渉経緯とその内容―
(1)「ポスト京都」交渉―コペンハーゲンからパリへ―
(2)パリ協定の主な内容 210
2 パリ協定と気候変動枠組条約および京都議定書との関係
(1)気候変動枠組条約とパリ協定
(2)京都議定書とパリ協定
3 パリ協定と気候変動に関する基本原則
(1)人類の共通の関心事
(2)共通に有しているが差異のある責任
おわりに
第8章 パリ協定における義務の差異化 ……………………………高村ゆかり
―共通に有しているが差異のある責任原則の動的適用への転換―
1 はじめに
2 パリ協定の法構造と義務の差異化
(1)気候変動枠組条約と京都議定書における義務の差異化
(2)パリ協定における義務の差異化
3 パリ協定における義務の差異化の特質
(1)多数国間環境条約における差異化
(2)パリ協定に至る交渉における義務の差異化
(3)パリ協定における義務の差異化の特質
4 結びにかえて
第9章 国際海運からの温室効果ガス(GHG)の排出規制……………………………富岡 仁
―国際海事機関(IMO)と地球温暖化の防止―
1 はじめに
2 国際海運からのGHG 排出規制に関するIMO の役割と基本原則
(1) IMO の成立と発展
(2) IMO の役割と基本原則
3 IMO と GHG 排出規制レジーム
(1)レジームの形成過程
(2)レジームの成立―MARPOL 条約付属書の改正―
4 市場的措置(MBM)―未解決の問題―
(1) MEPC における検討の経緯
(2) MBM 導入の必要性をめぐる議論
(3) MBM に関する諸提案
5 おわりに
第Ⅲ部 海洋法の現代的展開
A 海の環境と生態系の保護
第 10 章 海洋生物資源の環境問題化…………………………… 都留 康子
―NGOは国際交渉にどこまで関与できるのか?―
はじめに
1 多様化する NGO―活動範囲の拡大へ―
2 第 3 次国連海洋法会議と NGO
3 海洋漁業資源と国連下の環境会議
(1)国連人間環境会議と IUCN の牽引
(2)リオサミットと大型流し網漁禁止の NGO キャンペーン
(3)国連公海漁業実施協定の採択とその後―NGO の限界?―
4 国家管轄権外の生物多様性(BBNJ)保全と新たな実施協定への道程
(1)海洋保護区の議論と NGO
(2)海洋遺伝資源と NGO
おわりに
第 11 章 北西ハワイ諸島における海洋保護区の系譜……………………………加々美康彦
―海洋法条約第 121 条の解釈と実際―
1 はじめに
2 海洋法条約第 121 条の解釈とその限界
(1)「島か岩か」
(2)「島か岩か」を超えて
3 海洋環境保護の展開―海洋保護区の登場―
4 北西ハワイ諸島での米国の実行
(1)各島の状況
(2)海洋法条約第 121 条をめぐる米国の立場
(3)海洋保護区の系譜
5 おわりに
第 12 章 深海底活動に起因する環境汚染損害に対する契約者と保証国の義務と賠償責任……………………………薬師寺公夫
―国際海洋法裁判所海底紛争裁判部の勧告的意見を手がかりに―
1 問題の所在
2深海底活動に起因する環境汚染損害に対する契約者の義務と 賠償責任
(1)深海底活動から海洋環境を保護する契約者の義務―注意義務の高度化―
(2)深海底活動に起因する環境汚染損害に対する契約者の賠償責任
3 深海底活動に起因する環境汚染損害に対する保証国の義務と賠償責任
(1)深海底活動に関して保証国が負っている条約上の義務―直接的義務と 条約規定等の遵守確保義務―
(2)保証国の賠償責任の根拠と範囲ならびに契約者の賠償責任との関係―第2 諮問事項に対する SDC 勧告的意見の意義と残された課題―
4 むすびにかえて
B 海の機関の手続と機能
第 13 章 国連海洋法条約における大陸棚限界委員会(CLCS)の役割と機能……………………………酒井 啓亘
―国際捕鯨委員会科学委員会(IWC-SC)との比較の観点から―
1 はじめに
2 CLCS と IWC-SC との間にはいかなる類似性があるのか
(1)委員会の任務
(2)委員会の構成
(3)関連条約の影響
3 IWC-SC と比較しての CLCS の特徴とは何か
(1)委員の独立性と不偏性
(2)政治的機関との組織上の関係
(3)政治的機関からのフィードバックの可能性
(4)法と科学の関係の取り扱い
4 CLCS の作業を改善するためにはいかなることがなされなければならないのか
(1)沿岸国との協調の必要性
(2)CLCS と政治過程との間の関係
(3)司法機関による CLCS の解釈の確認作業の必要性
5 おわりに
第 14 章 大陸棚延伸と大陸棚限界委員会手続規則の問題点……………………………西村 弓
―日本の延伸申請を素材として―
1 はじめに
2 日本の大陸棚延伸申請をめぐる経緯
3 勧告先送りの正当性―CLCS 手続規則の問題性―
(1)CLCS 手続規則
(2)手続規則と海洋法条約の非整合性
(3)同意要求の含意
4 手続規則の正当化可能性
(1)実体的正当化可能性
(2)手続的正当化可能性
5 おわりに
第 15 章 深海底資源開発をめぐる国際法上の検討課題について……………………………河 錬洙
―国際海底機構(ISA)の活動を中心に―
はじめに
1 深海底制度の概要
(1)深海底制度の形成
(2)国連海洋法条約第 11 部の実施に関する協定(深海底実施協定)
2 ISA の機能と役割
(1) ISA の成立とその概要
(2) ISA の活動現況
3 ISA における検討課題
(1)鉱区重複の調整問題
(2)深海底環境保護の問題
おわりに 436
第 16 章 ITLOS 大法廷が勧告的意見を出す管轄権の根拠……………………………兼原 敦子
1 はじめに
2 ITLOS の勧告的意見付与権限の根拠
(1)内在的ないしは黙示的権限論
(2)ITLOS の勧告的意見付与管轄権の根拠とされうる条文規定
(3)規程第 21 条をめぐる議論
(4)規則第 138 条(1 項)をめぐる議論
(5)UNCLOS 第 288 条 4 項をめぐる議論
3 ITLOS が勧告的意見付与権限を認める論理の評価
(1)設立文書や締約国合意に基づく国際裁判所・法廷における勧告的意見付与権限
(2)起草過程と事後の実践における ITLOS の勧告的意見付与権限に関する
UNCLOS 締約国の動向
4 おわりに