高橋勝『応答する〈生〉のためにー〈力の開発〉から〈生きる歓び〉へ』
誌名 全私学新聞 第2491号 2019年10月23日
「なぜ勉強するのか」答えの手掛かり
子どものころ「なぜ勉強するのだろう」という疑問に悩まなかった人はいないだろう。1970年代半ば、著者が大学院生のとき、中学生向けの塾の講師をしていたらある生徒に「なぜ勉強してきたか?」と質問された。生徒はすでに親や担任、校長に聞いてきたが「高校に行きたくないのか」「君は疲れている」などとはぐらかされたという。そして著者もすぐに答えが出せず、考えた揚げ句、他の人と同じように「何でも知ることは面白いし役に立つ」と変わったようなことしか言えず、生徒を落胆させてしまった。著者はその後しばらくたって森鴎外の小説『青年』の一節を読み、あのとき生徒が抱いた思いに気づいた。小中高大、就職と、用意されたレールの上を一生懸命駆け抜けるだけの人生はむなしくないのか、何で勉強して働いて生きるのかと。100年前に森鴎外が抱き、50年前の若者も抱いたジレンマは、まさに今も変わらず存在している。その答えの手掛かりを、「力」と「生」をキーワードに分析。そこから「おのずから」生きてその「歓び」を日々味わってほしいという願いが込められている。教育哲学・教育人間学が専門で横浜国立大学名誉教授の高橋勝氏が執筆。
(東信堂 本体価格1800円̟̟+税)