【文献紹介】山内乾史編『若手研究者必携 比較教育学の研究スキル』

【文献紹介】山内乾史編『若手研究者必携 比較教育学の研究スキル』

(A5・135頁・¥2000+税)

日本比較教育学会 比較教育学研究第59号 2019年

 

 

米原あき(東洋大学)より

本書は、2014-2016年度の日本比較教育学会にて、研究委員会が開催したラウンドテーブル「比較教育学におけるアカデミック・スキル」で報告され、議論された内容をハンドブックとしてまとめたものである。その書名が示すとおり、比較教育学や国際教育協力およびその隣接分野の若手研究者を主な対象として、アカデミック・スキルの基本的な要点が概説されている。

編者が「はじめに」で指摘するように、昨今の大学院重点化によって大学院生の数が増加している一方で、教員の多忙化が進み、若手の研究者が十分な指導を受けられないまま研究活動を行わざるを得ない状況が生まれている。本書の直接的な目的は、このような状況におかれる若手研究者の一助となることにある。さらにより遠視的な目的として-本文に明言されているわけではないが、本書の一著者として著者が理解しているところでは-スキルの側面から若手研究者を支援することによって、日本の比較教育学の発展と、その国際的な発言力の強化に寄与することを目指している

本書がとりあげるアカデミック・スキルは、リサーチ・スキル(第Ⅰ部)、プレゼンテーション・スキル(第Ⅱ部)、ライティング・スキル(第Ⅲ部)、そして研究倫理(第Ⅳ部)の4領域にわたる。研究倫理を除く各領域においては、量的なアプローチと質的なアプローチによるスキルが概説されているが、これらに加えて、第Ⅰ部ではエスノグラフィーのスキル、第Ⅱ部では英語によるプレゼンテーションのスキル、第Ⅲ部では理論研究のスキルがカバーされている。

アカデミック・スキルを扱うテキストは珍しいものではないが、本書の特徴は、各章で、比較教育学あるいは国際的な文脈における教育研究ならではのポイントや意義に言及している点にある。例えば、量的・質的なデータを国際比較の文脈で読み解く際に留意すべき点や、「研究者-研究対象-その研究成果のオーディエンス」の「当たり前」が異なる状況で研究調査を行ったり成果を発信したりする際の留意点などが、各章の随所で解説されている。またその解説にあたって、各著者が自らの経験に基づき、具体例や体験談をさしはさみながら説明している点も本書の特徴であり、魅力であるといえるだろう。本書を手に取ってみれば、若手研究者でなくとも、はっとさせられることが多々あるに違いない。

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