【書評】茂木一司 編集代表『協同と表現のワークショップ 第2版』
新英語教育 通巻544号 BOOK REVIEWより(2014年12月1日発行)
「ワークショップって何のことだろう」「なぜ研修をワークショップ形式で行う必要があるのだろう」「なぜワークショップに集まる人々が増えているのだろう」この質問に答えに興味を持たれた方は、ぜひ本書を一読していただきたい。この本に登場する、茂木・苅宿・佐藤・宮田氏らは、ワークショップのプロとも呼べる方々で、冒頭の問いにわかりやすく真正面から答えてくれている。本書を読めば、ワークショップの定義、それを支える学習理論、企画、運営から記録や評価の方法、そして実際の具体例と、ワークショップのすべてをわかりやすく網羅的に理解することができる。又実際に自分でワークショップを立ち上げる際に、留意しなければならない点に気付くことができるだろう。
教員になって以来、今まで数々の研修に参加してきた。その帰り道、参加する前と後では、「自分の中の何かが変わった」と確かな手応えを感じるときがある。思い返してみると、そのような検収は決してワークショップと銘打っていなくても、“ワークショップ型”の研修だったのである。
ワークショップ型の研修とは何だろうか。それは参加した後で、自ら「思わず」学んでしまった自分に気づく研修ではないだろうか。学びには成長や進化といったプラスの面だけでなく、多かれ少なかれ自己否定が必ずともなう。なぜなら人が何かを学び、変わる際には、自分の中に新しい概念や知識を積み重ねるだけではなく、今までの自分をどこかで否定することが必要だからだ。他者から自分を否定されれば痛みが伴う。反発もあるだろう。しかし有効に機能しているワークショップに参加すれば、他者との協働や差異への気づき、振り返りを通して、自ら「思わず」学んでいる自分に気づくだろう。それこそは最も強力な「学び」の形の一つではないだろうか。
本書によるワークショップの定義と目的は一つである「アンラーン=学びほぐし」とは、「自ら作り出してしまったさまざまなワクをいったん壊し、作り直すこと」である。人は自己を振り返り、とらえ直すときに他者の存在を必要とする。それこそがワークショップが提供する学びの場である。
学習は知識を受動的に記憶する個人の内的プロセスとする従来の学習観に対するカウンターカルチャーとしてのワークショップ解説の書。読めば学びについての概念を再考する機会になるだろう。
(埼玉県立新座高校 吉田友樹) domain tech info .
【東信堂 本体価格2,400円】