【書評】平田利文 編著『アセアン共同体の市民性教育』〈編著者からの紹介〉
比較教育学研究第55号 p.192より
本書は科研「ASEAN諸国における市民性教育とアセアンネスのための教育に関する国際比較研究」(平成22—25年度、基盤研究A、研究代表者:平田利文、JSPS科研費22252007)の研究成果報告書である。平成28年度科学研究費助成事業(研究成果公開促進費)により出版された。日本人研究者12名、ASEAN各国共同研究者11名、総勢23名で執筆されている。
本書の目的は、(1)市民性教育の政策・カリキュラム・教科書などの現状、(2)児童生徒を対象として実施した市民性に関する意識調査結果、そして、(3)市民性教育に関する有識者を対象としたモデルファイ調査(未来予測調査)結果、について検討することであった。本書の特色は、児童生徒に対し市民性教育に関する意識調査を実施するとともに、市民性教育に係わる有識者を対象にしたデルファイ調査(未来予測調査)を実施し、今後10年間で当該国はどのような市民性教育を実施すべきか、児童生徒が具体的にどのような市民性を身につけるべきかを予測している点である。また、第Ⅲ部の総括では、児童生徒への意識調査結果の比較分析、また、デルフォイ調査結果の比較分析を試みており、アセアン各国の特色や傾向を浮き彫りにしている。さらに、デルフォイ調査では、10年後の未来を予測した。その未来を実現するために、どの市民性資質を優先的に育成すべきか提言している。しかしながら、特に、有識者対象のデルフォイ調査で得られたデータについては、現地での実態に応じて、今後より深く詳細に分析されるべきものととらえている。
政策・カリキュラム分析結果、児童生徒への意識調査結果、そしてデルフォイ調査結果などの研究成果が、アセアン各国の政策提言、カリキュラム改革・開発の示唆となり、各国の市民性教育の発展に寄与することを期待している。
2015年11月には、アセアン共同体の3本柱「アセアン政治安全保障共同体(ASEAN Political and Security Community : APSC)」「アセアン経済共同体(ASEAN Economic Community : AEC)」のうち、「アセアン経済共同体(AEC)」が先行スタートした。今後はこれら3つの枠組みの下で順次教育改革が推進され、市民性教育が行われることになっている。本研究の成果がその改革推進の一助となることを切に願っている。
(大分大学)
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