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福永武彦論
――「純粋記憶」の生成とボードレール -
最後の瞬間に見る本質的な一情景
記憶の奥深く、ある核心的なイメージが眠っている。忘却の底に沈み、容易に捉えられないこうした内的風景を「純粋記憶」と呼び、具体的な色、匂い、音などが記憶や心を呼び覚ます情景を描き、自らにとって本質的な記憶の定着を試み続けた福永の営みを、感覚と精神との交響を説いたボードレールの「万物照応」の理論に照らし、初期から晩年の福永作品に即して具体的、精細に跡づけた本書は、ユニークな作家であるとともに、比較文学の優れた労作である。
主要目次 :
序章 問題の所在
第一章 追憶の主題――幼年喪失か憧憬そして形象へ
第二章 モティーフの誕生――「独身者」における「純粋な記憶」をめぐって
第三章 小説「冥府」における「幼年」――「暗黒意識」から「純粋記憶」へ
第四章 想像力あるいは記憶の創造――「忘却の河」における記憶観の転換
第五章 失われた記憶の小説「幼年」――「純粋記憶」と「万物照応」
第六章 深く生きられた「現在」――「死の島」における二四時間
結語
主要参考文献
福永武彦 生涯と作品
あとがき
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アングロ・サクソン文学史:散文編
(横浜市立大学叢書009――シーガルブックス) -
純文学作品のみ扱う従来の文学史を超えて、古英語時代の文献を幅広く概観し、当時の人々の文化、世界観等彷彿とさせる、本叢書:韻文編に続く、わが国では数少ない親しみやすい入門書。
主要目次:
はじめに
第1章 アングロ・ラテン文学
第2章 法律、条約、およびその他の法的文書
第3章 アルフレッド大王と古英語散文の伝統の確立
第4章 修道院の復興とアングロ・サクソン時代後期の文学
第5章 自然科学関連の作品
第6章 その他の古英語散文作品
参考文献
おわりに
索引
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いくさの響きを聞きながら
――横須賀そしてベルリン -
“戦争の世紀”が胸に蘇る新「二都物語」
横須賀とベルリン――それはそれぞれに太平洋戦争と東西冷戦のひとつの核心をなす舞台であり、“戦争の世紀”20世紀を象徴する都市であった。海軍軍人の父を持ち、少年時代に軍都横須賀で、そして留学時代に分断都市ベルリンで、「いくさの響き」をつぶさに見聞した著者による、臨場感あふれる回想記であると共に、一研究者としての視線に貫かれたユニークな現代史断章。
第1部 いくさの街に育ちて(富士山、愚直な勤勉さ、海軍志願、海兵団入団 ほか)
第2部 外つ国で聞くいくさの響き(分断都市ベルリン、壁による分断、奇跡の復興、東欧の優等生 ほか)